「……やっ…」
「聞け。翠。」
「先生…やだ…」
「お前、教師になるんだろ?」
「……ふ…っ…」
「母ちゃんに、認めてもらうんだろ?」
涙でボロボロになった彼女の顔を、自分の腕の中へと押し込める。
「俺も楽しみにしてるんだからな。すげー嬉しかったんだ。お前が教師になりたいって言った時。教師になったお前の姿思い浮かべて、ガラにもなく泣きそうになったんだぞ」
凄いよな。お前は。
俺にどれだけ幸せを与えれば気が済むんだよ。
俺の空っぽだった心は、今じゃお前でいっぱいだよ。
「お前の夢は、俺の夢でもあるんだからな」
叶えてくれよ。
夢なんてなかった俺は、夢を叶えたことすらないんだ。
俺が生きている間に出来なかった事をお前が代わりにしてくれるんだと思うと、俺はまた一つ救われるんだよ。
「そんでさ、俺の事覚えててくれよ。
お前が思い出す俺が死んだ後の俺なんかじゃ嫌なんだ。今日までの俺を覚えてて…」
これが最後の俺の願いだから––––。
しんと静まり返る空間で、傘に打ち付ける雨音だけがやたらと響いている。そんな時間が続いた後。
「分かり…ました」
そう言って顔を上げた翠の顔は涙でグシャグシャだった。
「あーぁ。ひっでー顔。んな顔になったら可哀想だから、せっかく黙って消えてやるつもりだったのに」
「……そんなの…ダメです」
されるがまま、袖で涙を拭かれていた翠が俺の手を止める。



