先生。あなたはバカですか?

「…で、でも!もしかしたらっ…もしかしたら全て上手くいく事だってあるかもしれない!奇跡が起こる事だって…っ」


傘を取らない翠の手をとり、傘の柄を握らせる。


もう一方の手で濡れた彼女の髪をくしゃりと撫でて、ゆっくりとかぶりを振った。


「もう、十分すぎるくらい奇跡は起きたよ。お前といた時間は、空っぽで死んでいくはずだった俺に起きた、最初で最後の奇跡だ。これ以上は望まない」


「……それでも…っ」



“側にいたい”



翠の手を掴む俺の手の袖を、ギュッと握りしめる彼女は、俯いて、絞り出すような声でそう言った。


彼女の涙はポタポタと地面へ落ちて、最後は雨水と混ざり合う。



綺麗な涙だな……。


本当は俺だって、死ぬまでお前が側にいてくれたらって、何度も思った。


だけど––––。



「…受験はどうすんだ」



彼女の肩がピクッと揺れる。



「……先生の方が…大切です」



「ふざけんな」



俺を見ようとせず、肩を震わせ、俯いたままの翠。


俺の袖を握った手も、未だに離さないまま。



「こっち見ろ。翠」


「……やです」


「見ろっ!!」



傘が再び地面へと落ちた。



彼女の顎を取り、俺を見るよう引き上げる。