先生。あなたはバカですか?

翠の手を取り、ゆっくりと俺の胸へと持っていく。


翠の手は、氷みたいに冷たくなっていて、涙が出そうになった。



「翠……。ありがとうな」



ありがとう。


俺の前に現れてくれて。


こんな俺を好きだと言ってくれて。



俺に、生きる意味を与えてくれて。



「……そんな…まるで、これで全てが終わっちゃうみたいに…言わないで……」


彼女の口から漏れた小さく掠れた声は、今にも消えてしまいそうで…。


今すぐにでも抱きしめて、安心させてやりたいのに、もう俺にそんな資格なんてなくて…。



「終わりだよ」



「……え?」



「これで、全て終わりだ。お前はもう、俺がいなくても大丈夫だよ」



「………っ!そんなのっ…」



「翠。俺はもう、お前の側にはいてやれない」



涙でいっぱいになった翠の目が見開かれて、震えた声で「…何で…?」と言った。


そんな翠を見ていると、胸が張り裂けそうになって。


俺はそれを誤魔化すように、傘を拾い彼女へと差し出した。


「俺は明日、地方の大学病院で手術を受けることになってる」


「…え…?」


「明後日には、俺はこの世にいないかもしれない。いたとしても、それは今日までの俺じゃない」