何もない道の上を歩き続けているお前の手を引いて、道のわきには沢山花が咲いてるんだぞって、気付かせることが出来ればそれでよかった。
「お前が自分の世界を打ち破った瞬間が、お前に大切な事を教えてやれるチャンスだと思ってたから。だから、俺はお前の側にいたんだ」
だけど–––––。
彼女の冷たくなった頬に、そっと触れる。
「……だけど、教えられたのは俺の方だった」
俺を真っ直ぐと見つめる翠の瞳が小刻みに揺れている。
涙が溜まった目に、雨粒のついたまつ毛。
寒さで真っ赤になった小さな鼻と、白い息が吐き出される真っ赤な唇。
バカみたいに真面目で、融通の利かない性格も。
弱さを隠すために取り繕ったポーカーフェイスも。
たまに見せる、無邪気な笑顔も。
お前を作る全部が、今じゃこんなにも愛しいと思うようになっていた。
空っぽだった俺に、お前は人を愛するってことを教えてくれたんだ。
「好きだよ翠。どうしょうもないくらいお前を愛しいって思うよ」
「先…生…?」
「お前に出逢ったあの日から、俺の世界は一変したんだ。もう、俺の“ここ”は空っぽはなんかじゃない」



