先生。あなたはバカですか?

今朝、ボールのせいで傷んだ花があった所に、女子生徒が屈んでいた。


後ろ姿で顔はよくは見えないけど、柔そうなストレートの髪を一つに束ね、少し長めの制服のスカートの裾は、花壇の土で汚れている。


花壇のレンガ部分に置かれたカバンの上には、開きっぱなしの参考書が乗せられていた。


3年の生徒か?


何やってんだ?こんな所で。


何となく声を掛ける気にもなれなくて、その場でつっ立ったまま見守っていると、彼女の白くて細い指が土の上で力なく横たわる花にそっと添えられた。




『……忘れないからね』




彼女から発せられた鈴の転がるような声に、心臓がドクンと音を立てる。



“忘れないからね”



そう言った彼女の言葉が、まるで自分へと向けられているようで……。


胸が苦しくなるのと同時に、涙が俺の頬を伝う。


次から次へと、今まで見て見ぬふりをしていた感情が溢れてきて、俺は熱くなった目を手で覆った。



本当は俺だって、こんな空っぽのまま死にたくなんかない。


一つでもいい。


死ぬまでに何かを残したかった。


せめて、“死にたくない”と、涙を流せるくらいの何かが、あれば良かったのに。



俺には、何一つ…ない。



『……先生?』