“母に言われたから”
『…なんだこれ』
『でしょ。成績も優秀だし、勉強熱心で頭のいい子なんだよ。超難関のK大でもこの子なら現役で合格出来るかもしれない。』
“だけど”と言って、拓人は溜息をつく。
『この子の家、母子家庭でさ。母親がかなり高学歴にこだわる人みたいで、この子はその期待に答えようと頑張ってるんだろうけど…。こんな理由でK大を受けて、彼女に何か得るものがあるのかな…』
腕を組み、考え込む拓人。
その気持ちも分からなくはない。
こいつは俺と違って、真面目で世話好きで。
人の気持ちに感情移入できる優しい人間だ。
だからこそ、そういう生徒を見るとほっておけなくて、生徒の未来を一緒になって考え、一緒になって頭を悩ませる。
こいつを見てると、本当に教師が天職なんだろうなって、少し羨ましく思えてくるくらいだ。
俺も教師なのにえらい違いだよな。
俺はこいつみたいに、生徒の事で頭を抱えるほど真剣に悩んでやる事なんて出来ない。
生徒に限らず、他人の事で頭を悩ませた事なんて一度だってなかった。
本当に、なんで俺みたいなやつが教師なんかやってるんだろうな。
おもむろに溜息をつくと、俺はスーツの内ポケットからタバコを取り出し、それを咥えた。



