昇降口を出ると、暗雲が空を覆っていた。
今にも泣き出しそうな空に、湿り気を帯びた風が吹く。
そこから見た景色全てが色を失い灰色に見えるのは、多分この天気のせいだけじゃない。
「降ってきそうだね」
ジャリッという、靴と地面の擦れる音がしたかと思うと、私の隣で吐く息を白くした川島君が空を見上げていた。
「川島…君?」
「久しぶり」
相変わらずのポーカーフェイス…だけど、小さく口角を上げ、優しく目を細める川島君にドキリと心臓が鳴る。
「……っ」
私は慌てて彼から目線を逸らし、「ひ、久しぶり」とどもりながら自分のつま先へと視線を落とした。
川島君と会うのは、“諦めるつもりはない”と言われたあの日以来だ。
今まで何度か廊下で見かける事はあったけど、なんとなく気まずくて私から声をかけたりはしていない。
きっとそうしているうちに、川島君は私なんか好きじゃなくなるだろうって…そう思っていたんだ。
だけどまさか、こんな時にはち合わせてしまうなんて……。
「岩田先生…」
彼の口から発せられるその名前に、反射的に肩が上がる。
「岩田先生、いなくなったって?」
川島君の瞳に哀れむような色が浮かんでいる。
そうか…。
川島君…知っているんだ…。



