何も伝えられないほど、頼り甲斐のない人間だったのでしょうか?
ねぇ先生。
何で…–––––。
次の日、峰山先生に数学科準備室に呼び出された。
そこには花織ちゃんの姿もあって、すっかり魂が抜け落ちてしまったかのような私を心配そうな顔で見つめていた。
出来る事ならこの場所には来たくなかった。
この場所は、どことなく先生の香りがするからだ。
少しタバコの匂いが混じったあの優しい香りが、もう先生はいないっていう現実を余計に突きつけてくる。
すっかり整理されてしまった片一方のデスクも、数学科準備室のソファーも、全部が先生との思い出の中にあって、この場所に足を踏み入れただけでギュウっと胸が押し潰されそうになる。
『何か用でしょうか?』
『生田。翔太の居場所が分かった』
その言葉に、ドクッと心臓が跳ねる。
だけど……。
『…もう、その話はいいです』
例え、先生の居場所が分かったって、先生が私に何も言わずにいなくなった事実は変わらない。
つまり、先生は私に探してほしいなんて思っていないって事で。
もっと言えば、私に先生を探す権利なんてない。



