先生。あなたはバカですか?


お母さんは、一体どこから聞いていたのだろう?


私の背後には、先生の車がある。


振り返って確認する事は出来ないけれど、車を発進させた気配はない。


これは……もの凄くまずい状況なんじゃなかろうか……!!


とにかく、何とか誤魔化さなくては!!


「お母さん!これはね!……」


思いもついてもない言い訳を何とか口にしようと言葉を発すれば、それを遮るようにして、いつもより一層頼もしく見えるその背中が私とお母さんの間を隔てた。



「初めまして。翠さんの学校で数学の教師をしています、岩田翔太と申します。
すみません。今日、彼女を引きとめてしまったのは僕なんです」


先生は、すらっと伸びた背筋のまま、とても綺麗なお辞儀をする。


その際に、先生の柔らかそうな黒髪がサラッと頬にかかって……。


この人は、お辞儀ですらこんなにも絵になるのか……。


なんて、こんな状況だというのに不謹慎にもそんな事を思ってしまった。


「教師ですって?教師がこんな時間まで女生徒を連れ回して、一体どういう事?非常識だとは思わないのかしら。あなたの学校は、職員に良い教育をされてるようね」


「…っ、お母さん違うよっ!!先生は私に数学を教えてくれていただけで……」