「生田 スイ。お前の中には今何がある?楽しい思い出か?悲しい思い出か?それとも、置いていかなければいけない誰かを思う気持ちか?恋心、友情…なんてのもあるぞ?」
「………い」
「え?」
視界を塞いでいた先生の手がゆっくりと離れていく。
目元に空気があたって、妙な冷たさを感じた。
「何も……ない。」
その冷たいものが、頬を伝って地面へと落ちて行く。
その瞬間、はっと我に返った。
私、何を言っているの!?
「こっ…こんなの誘導尋問だわ!バカらしい!こんな事の為に呼び出したなら、私戻りますっ!」
私は、袖で乱暴に涙を拭うと、身を翻し準備室を出ようとドアのぶに手を掛けた。
その瞬間–––––
「きゃっ…!」
背中に感じる体温。
髪にかかる息。
状況を把握するまでに、少し時間がかかった。
私……岩田先生に抱きしめられてる…?
後ろから回された腕は、思ったよりずっと逞しくて、軽々と私を拘束する。