「でも俺は、その道を逸れていく勇気がなかった。だから結局、流れのままに教師になった。だけど……」
先生は、一度言葉を紡ぐのをやめる。
その時先生の唇が、一瞬だけど震えた気がした。
「自分と……向き合わなくちゃいけなくなった時、今までの自分をもの凄く後悔した。俺には、何にもなかったんだ。空っぽだったんだよ。もし、俺が明日死ぬとしたら?そう考えた時、親の言うままに生きてきた俺の中には、何一つ残らなかった」
「先生……」
「お前に散々偉そうなこと言っておきながら、後悔した事があったのは実は俺だったってな。でもな?だからこそ、お前にはそうなってほしくないと思ったんだよ」
先生は、また私の頭を優しくなでる。
少し寂しそうな笑みを浮かべながら。
先生の言葉の説得力の意味が、今やっと分かった気がした。
先生の言葉が、あんなにも頑なだった私の中にスッと入ってきた意味も……。
先生は、私と“同じ”だったんだ。
お母さんを悲しませたくないから、お母さんに嫌われたくないから、そう思って、言う通りに生きていくのが当たり前だと思っていた私。



