「そ、それは、あなたがいちいち近いからで…っ!」
そう言いかけて、私は口をつぐんだ。
先生が、私に何かを差し出したからだ。
「ん。いらねーの?参考書」
「……っ」
私、この人のこの余裕たっぷりな所が好きじゃないわ。
今さっき、私に好きだと言ったばかりなのに、こんなに平然としているなんて変よ。
好意のある相手を前にしたら、普通もう少し余裕がなくなるものでしょ?
私は悶々とした苛立ちを覚えながらも、参考書をその手に受け取った。
手元になかったのはたった一日だけだというのに酷く懐かしく感じるそれは、手元に戻って来たというだけでこの安心感。
私の中で、もうすっかり御守りのようなものになっているのだろう。
「すげぇ書き込みだな。それ」
「…一番使っている参考書ですから」
これは、私の努力の結晶。
書き込みや付箋が増えれば増えるほど、それだけ勉強をしているって自負できる。
沢山沢山、勉強をしてきた証。
私の自信。
ほら。教師として、褒めたらどう?
少しは教師らしい所を見せなさいよ。
どうせあなたも他の人みたいに、
“頑張り過ぎるな”って言うんでしょ?
「くっら。」
………………へ?
「お前、限りなく根暗だな。さしずめ参考書とお友達ってところか」
…ちょ。
ちょっと待ってよ?
目の前の不良教師は、両手を顔の横で開いて呆れた顔で「あーあ」と欧米人のようなリアクションをしている。



