「あっちもこっちも見なきゃならなくて、大変ですね」
「そうだ。俺は大変なんだ。その上、こうやって自分の女の事まで気を回してんだ。ありがたく思え」
何と押し付けがましい言い方だ…。
私がジロリと先生を睨むと、先生はニヤニヤとした顔を向けてくる。
「別に頼んでいませんし。それにもっと別の所に気を回してほしいくらいです」
「何だよ?別の所って」
「本当に気を回してる人は、人の家まで押し掛けては来ないってことです。どうするんですか。本当に誰かに見られでもして、あらぬ疑いをかけられたりしたら。教師を辞めなきゃならなくなるんですよ?先生は、自覚が足りな過ぎます」
そう言い終えると、先生は何も言い返さずキョトンとした表情で私を見ていて…。
何かしら上げ足を取ってくるだろうとふんでいた私は、そんな様子の先生に拍子抜け。
訝しげな表情で首を傾げた。
「なんですか?」
「……お前、俺の事心配してくれてるんだ?」
「は!?!?」
ちょっと待て!!
なぜそうなるっ!!
呆れている気持ちもさる事ながら、羞恥心までも込み上げてきて、真っ赤な顔で口をパクパクさせていれば、「仕方ないだろ」と言って優しく微笑む先生の手が、私の側頭部を撫でた。



