先生。あなたはバカですか?

きっともう私は、あの頃の一人ぼっちの自分には戻れない。


人の手が、こんなにも温かいものなんだって知ってしまったから…–––––。



「うん。花織ちゃん。ありがとう」







その日の放課後。


教室の中に生徒達がいなくなったのを確認すると、私は読んでいた参考書を閉じ、数学科準備室へと向かった。


理由はただ一つ。


あの男に会う為だ。



なるべく人目を避け、急ぎ足でそこへと向かう。

ようやく数学科準備室の扉の前に着いて、私はピタリと足を止めた。


念の為辺りを確認するが、人の気配はないようだ。


ノックをしようと、意を決してその扉に手を伸ばす。


だけど、その手はそのままの状態で固まってしまった。



––––あの男に会ったところで、一体私は何を言えばいいんだろう?



突然、そんな考えが過ってしまったからだ。



夏休み、なぜ連絡をくれなかったのだと責めるつもり?


いや待て、意味がわからないぞ。


そもそも連絡先だって交換していないのに、その言い分はおかしいだろう。



じゃあ、私達本当に付き合ってるんですか?とか聞いてみる?


いやいやいやいや。