それどころか、ポンッと頭に小さな重みが乗って顔を上げれば、
「危ねぇからこんな時間に1人で出るな。外行きてぇなら声掛けろよ。付き合ってやるから」
そう言って、もう一度優しく私の頭を撫でると、岩田先生は何事もなかったかのように私の前を通り過ぎて行った。
撫でられた頭にそっと触れる。
何なの。
こんなの調子が狂うじゃない…。
頬が暑く感じるのは、きっとさっきあんなにも走ったせいだと信じたい。
先生は、ロビーのすぐ近くの部屋のドアの鍵を開ける。
きっとそこが彼の宿泊している部屋なのだろう。
この人は、何でこんなにも普通にしていられるの?
私、昼間にあんなにも酷い言い方をしたのに。
私を見ても顔色一つ変えないで。
昼間のあれは何だったわけ?
あんなに取り乱していたくせに、
大人ってヤツはすぐに何もなかったように出来るのね。
きっと彼にとっては大した事ではなかったのだろう。
私はあんなにも悲しかったのに。
沢山彼の事を考えて、
でも考えないようにして。



