溺れる恋は藁をも掴む

 雪のような白いコートを羽織り、あなたから貰った空色のマフラーを巻いて、1%の望みに懸けたんだよ。

 どんなに距離を置かれても、この日を覚えていてくれたあなたに、好きという気持ちは100%を保っていたんだ。


 待ち合わせの店の前で、あなたが来るのを5分前から待っていた。

 あなたは時間丁度くらいに店にやって来た。


 クリスマスムードが漂う店内。

 あなたが予約してくれた、少し高そうなフランス料理の店。

 席に座り、向かい合わせになって、やっとあなたの顔を見れた。

 『お久しぶり』って言葉が出そうなくらい、あなたに会えるまでの時間の経過を長く感じたわ。

 あなたはコースメニューとワインを注文してくれていた。

 「華ちゃん、誕生日おめでとう!」

 ワイングラスを傾けて、乾杯をした。

 「有難う御座います。
素敵なお店ですね!」

 「気に入ってくれた?」

 「はい、とっても」

 周りを見渡せば、幸せそうな家族や恋人達が、今宵のクリスマスを笑顔で祝っていた。

 次々と運ばれてくる料理。

 フランス料理特有の盛り付けなのか?
大きなお皿に、綺麗に盛りつけられ、『食材の絵画でも召し上がれ』とでも言いたげで、お上品過ぎて、私には不似合いな場所に感じた。

 交わされる会話は、あの日の事は避けながら、『仕事が忙しくて残業続きだった』という、
あなたの苦しい、いい訳。

 『この店は、あの合コンに居たボンボン茅野に教えて貰って予約したんだ。
朋美さんも気に入ったみたいだよ。
あの二人、今日はクリスマスコンサートに出掛けたみたいだね…
有名なピアニストの演奏を聴くらしいよ』
なんて、他のカップルのどうでもいい話。

 『あの沢口に彼女が出来たらしいよ』
どうして、私が全然興味のない男の恋愛成就の話まであなたはするの?

 私は料理を食べながら、作り笑顔で聞いていた。

 「今日、誠治さんから貰ったマフラー、初めて巻いてみました!
この日に巻くって決めていたんですよ!」

 あなたに少しでも喜んで欲しくて言ったのよ‥…

 「あっ、そうだったね」

 あなたは今気づいた顔をしたわ。

 そういうの………
鈍感な私でも見逃さない。

 私なんて見てないって証拠をつきつけられたのと同じなんだよ…