溺れる恋は藁をも掴む

 見るからにお水の出勤前の格好の女。

 お水女の気まぐれか?
 ストレス解消か?
くらいにしか思わなかった。

 でもさ、あんまりにも不恰好に空振りかますから、つい横目で見ちゃうんだよな……


 それでも百合は打つ事を辞めない。
何だか意地になっているみたいだった。

 しまいにはお金を崩してきて、また打とうとしてる。

 ーー変な女ーー
これが百合の第一印象。

 でも、そんな百合の滑稽な姿が視界に入る度、俺は笑ってしまったんだ。

 笑うことすらも忘れて過ごしてきた日々の中で、自然に笑みが溢れた。


 『もう、辞めりゃーいいのに……
まだ続けんのかよ?』なんて思いながらも、そんな百合の姿に段々癒されていった。


 一通り打って帰ろうとした時に、百合に声を掛けられたんだ。

「ねぇ、君!」って。

 振り向くと、そこで百合が笑っていた。

 「うまいね!
バッティング」

 普段ならそこで、『あっ、どうも』で終わるはずなのに、人懐こい百合の笑顔に立ち止まってしまった。

 結局、バッティングのコツなんかを教える羽目になった。

 暇だったし、何だか面白そうだから付き合う事にしたんだ。