溺れる恋は藁をも掴む

 母さんは来る日も来る日も、弱気になった親父の愚痴に付き合わされた。

 柊が生まれたばかりで、寝不足なのも御構い無しに……

 母さんが上の空で聞いていると、親父は『お前、聞いてるのか?』と更にムキになった。

 母さんは、当然うんざり顔になる。

 親父が愚痴り出すのは、大抵酒に酔った頃。

 タチが悪く、いつまでもネチネチと同じ事を繰り返す。


 いくら母さんが同じ職場で働いていて、状況は何となく把握出来たとしても、毎日の愚痴に付き合うのはいい気はしない。

 それでも最初は、『まぁまぁ、あなただからこそ、白羽の矢が立ったのよ!
人事も社長もあなたを見込んでこその人事異動なのよ!
あなたはよくやってるわ!」

 慰めてもいたんだ。


 それでも、ストレスの溜まったタチの悪い酔っ払いには通じない。

 相手が、『もう分かったから!』という顔をして終わりにしょうと畳み掛けても続ける。

 自分が気が済むまでなかなか終わりにしょうとはしない。

 ーー本当にタチが悪いーー