溺れる恋は藁をも掴む

 あの日、華をクラスメートの香取がからかった時、俺は初めてと言っていいくらい、華に視線を注ぎ、その流れを見ていた。

 香取は華に対して、悪気はないにしろ、残酷な事を言ったからだ。

 太っている人に太っていると真っ正面から言うなら、心配してるからこその忠告なんだと、言うように話すべきだ。

 人前で晒し者にするみたいに言うもんじゃない。

 それに、異性がからかって言う事ではない。

 そう思うのは、心の中にしとけ!
デリカシーない奴とだと思った。


 華は一瞬、下唇を強く噛み締めた。
そして上目遣いになった。

 少しプルプルと唇が震えたのを、俺は見逃さなかった。


 女性が辛い時に、涙を堪えて、心に無理矢理悲しみを押し込む時に、こんな表情をする事がある。

 俺は、ずっとこんな表情を見ながら育った。

 俺がよく知っている女が、こんな表情をして、歯を食いしばっていたから……