「十の歳の時に家を出て、今川家に仕え始めた。最初は今川義元から見れば陪々臣である松下之綱殿に小姓として仕えていた。武士になりたくて、のしあがりたくて松下殿と体の関係を持ってまで女中としてではなく、小姓として入れてもらった。」

陪々臣とは、今川義元からしたら配下の配下だ。身分も低い方に仕えていたのか。

「松下殿は私が女であることを利用しようとしていた。身分の高い方に私を紹介し、売ろうとしていた。しかしまぁ私も上に上がりたかったからな、その当時は汚い手を使っても上がりたかった。」

秀吉殿が苦虫を噛み潰したかのように嫌そうな顔をする。

「男がどうしたら喜ぶか。武芸や読み書きなどを覚えるのと共に床の勉強もした。……はぁ、嫌にならんか?こんな話。」

「いえ、予想は…してましたから。」

やはり秀吉殿はそういうことをしてきていたのか。大殿と話したときから想像はしていた。しかし実際聞くと悲しくなる。

「そのうち氏真や義元に気に入られるところまでいった。しかし今川家は堅い。武士になりたいのに、武士として取り上げてはくれんかった。」

確か今川家は将軍家に何かあって潰れた時には、将軍家を継ぐ権利があるほどの家柄だったはず。確かに織田家と比べたら堅いのかもしれない。

「そんなときに大殿と会ったのだ。義元が見せびらかすように大殿に紹介された。何度かお会いするうちに織田家に引かれていった。まぁすぐに今川家が上洛を目論んでいたせいで織田家とは敵対したがな。」

秀吉殿が元々仕えていた義元に殿とつけないのはわざとだ。
大殿に対する忠義のようなものなのだろう。

大殿というたびに表情が柔らかくなる秀吉殿に、少し妬けてくる。