「お父さんのことを忘れないでいてくださって、ありがとうございます」




私はそう言って、柔らかく微笑んだ。



嬉しかった。


誰かの心の中に、私の大切な親が生きていたから。




「忘れるわけないじゃない」


「望空さん……」




今でも時々、あの寒い冬の日を思い出す。お父さんとお母さんはもうこの世界のどこにもいないと知ったあの時間を。


どうしようもなく泣きたくなって、辛くなって。


それでも笑顔を作るのは、独りぼっちじゃないと思いたかったから。



お父さんとお母さんの姿はもう見えなくても、どこかで見守ってくれていると信じていたかったから。




「あなたのお母様は、確か女優の……」


「はい、桜子です」




私のお母さんは、国民的女優だった桜子。本名は風都 桜子【カザト サクラコ】。生まれ持った美貌と誰もが惹き込まれる演技力に、多くの人が虜となった伝説の女優。


お母さんの初主演映画の監督だったのがお父さん。その出会いをきっかけに、二人は付き合いだしたとお母さんに聞いた。




「あなたは、ちゃんと引き継いでいるのね」


「え……?」


「お父様の強さと、お母様の才能を」