「ねぇ、利央!何のケーキ作るの?」


「何か希望はある?」


「俺はチョコケーキがいい!」


「昨日もそうだったじゃん。今日はいちごタルトにしようよ」


「はあ?チョコケーキはいつ食べても美味いんだよ」


「由楽は飽きてるかもしれないじゃん!」




神雷の洋館に向かう途中、どんなケーキにしようかと話し合っていただけなのに、蜜と恭弥は言い争いを始めてしまった。


そんな二人を見ていると、なんだかホッとする。


辛い日々が過ぎ去って、楽しい時間が流れるこのときが、本当に夢じゃないんだって改めて思わせてくれるから。


口喧嘩している二人は放っておくことにした利央が、「由楽」と私に声をかけた。



「良ければパーティーが始まったら“侍”の話を聞かせてくれる?」


「お父さんの話?」


「ダメ?」



利央は少し顔を傾けてそう言った。


私は笑顔で「いいよ」と頷くと、利央は嬉しそうに目を細めた。


不意に岳斗の顔をチラッと見ると、岳斗も私を見ていて、視線が重なった。


ドキドキと甘い鼓動が響く。


岳斗の目がいつもより穏やかな気がするのは、どうしてなのかな。





これから始まるのは、私の新たな人生。


この先に広がる未知なる“明日”には、きっとはちゃめちゃだけど、時には私を助けてくれる王子様になってくれる、強くて優しい皆がいる。


抱えていた不安も恐怖も涙も置き去りにして、私は未来に期待を膨らませながら一歩踏み出した。