ふわふわと靡く髪を押さえて、
膝に置いた本を閉じた。


こんなに心穏やかになれるなんて。
あの日の自分は打ち拉がれていたのにと、思う。


安奈はふぅーと、息を吐いて
湖を眺めていた。


「どう?久し振りの外出は。」


振り返れば、金髪にブルーの瞳。
腰に剣を携えたアランが安奈を見下ろす。


「ずっとお城の中じゃ、
退屈だったでしょ?この一ヶ月」

と、安奈の隣に腰を掛けてにっこりと
アランが笑うと、
ふるふると安奈は首を振った。


「仕様がない事だもの。
異世界からの来訪者なんて………」

「あの日、湖に堕ちてきた安奈を見て
僕は天使だと思ったよ。」


思い出したように目を細めたアランだが、
逆に顔を曇らせた安奈。


残して来てしまった妹の事が
気掛かりでならない。


何故自分が、ここに転送されたのかも
全く安奈には分からないのだ。



ただ覚えているのは――――――――。




学校の屋上で――――――――
妹の安寿が泣き叫んで、
自分を呼んでいた事。




そう、安奈は確かにあの日、
屋上から飛び降りて
――――――自殺したはずだったのだ。