次の日、朝のホームルームが始まる前。吉野くんと崎田さんが真っ直ぐに歩いて、派手なグループの女の子たちの前に立った。
談笑をしていたクラスメイトたちもそれに気付き、時が止まってしまったかのように、口を開けたままその様子を見守る。
矢田さんは席に着いたまま、じっとそちらを見つめていた。
派手なグループの女の子たちは吉野くんと崎田さんを睨み上げるけれど、やっぱりふたりは特に気にしていないようだった。
「やっぱり、矢田さんは盗ってなかったよ」
静かに、崎田さんが切り出した。
「昨日の昼休み、女子トイレは大混雑だったんだってね。そこで化粧ポーチを開けてたって、みんな言ってた。多分その時にアイシャドーを落としたんじゃないかな」
昨日、派手なグループの女の子たちが教室に戻り、予鈴が鳴る頃になると、女子トイレにはほとんど人がいなくなった。そこである女子生徒が、床に落ちたアイシャドーを見つけたらしい。
学年で化粧をしている子は数えるほどしかいない。派手なグループの女の子たちですら普段はすっぴんで、放課後遊びに繰り出す前に化粧をしていた。
だからアイシャドーを見つけた子も矢田さんの落とし物だと勘違いして、机の上に置いたのだろう。
穏やかな声のお陰か、崎田さんのその説明はやけに説得力があった。
でも女の子たちは納得できないようで「そいつ連れて来てよ」と怒気を孕んだ視線と声色で言った。
ここでようやく、吉野くんが口を開く。
「そいつも悪気があったわけじゃないから、責めるなよ?」
「分かってるよ! なに、吉野も崎田さんもそんなにあたしたちが信じられないわけ!?」
吉野くんと崎田さんが顔を見合わせる。見合わせた、というより、アイコンタクトをした、と言ったほうが正しいかもしれない。
そして吉野くんが廊下を覗き込み、軽く手招きする。すぐに教室に入って来たのは、隣のクラスの女の子だった。
ぴりっとした雰囲気の教室に足を踏み入れ、彼女は一瞬顔を強張らせたけれど、すぐに崎田さんたちと同じように真っ直ぐな表情をして、派手なグループの女の子たちを見た。
「ごめんなさい。私てっきり矢田さんの物かと勘違いして。悪気は全くなかったの。化粧品の持ち込みは一応校則違反だから、職員室にも届けられなくて。矢田さんは普段から化粧をしているから、そうかなって思って。ちょうど移動教室でみんないなかったから、確認も取らずに置いちゃったの。迷惑かけて、本当にごめんなさい」
こうもはっきり、説明と謝罪をされれば、もはや女の子たちに反論はできなかった。さらに彼女を責め立てれば今後の学校生活に関わると察したのだろう。
「分かった。もういい。次は紛らわしいことしないでよね」
それだけ言って顔を反らしたから、吉野くんも崎田さんも隣のクラスの女の子も、勿論矢田さんも、何も言わずに解散した。
でも別れ際、崎田さん、吉野くん、隣のクラスの女の子の順で矢田さんの背中をぽんとたたいていたから、きっとみんな何かしらの交流があるのだろう。だから仲裁を買って出たんだと思った。



