恋は人を変えるという(短編集)





 そうしている間に衣替えをし、新しい生徒会役員を選ぶ選挙があり、市内のホールで芸術鑑賞会が開かれた。
 驚いたのは、芸術鑑賞会で演奏を披露してくれた楽団の方々に渡す花束を持って壇上に現れたのが、崎田さんだったということだ。
 クラスメイトたちもそれを知らされていなかったのか、わたしの周りからは「わあ」っという歓声が上がった。

 きっちりと制服を着て、背筋をしゃんと伸ばし、綺麗な所作で花束を渡す崎田さんを見たら、なんだか軽い気持ちで手芸部に誘ってしまってはいけないような気がした。
 戻って来た崎田さんは「文芸部の部長だからって顧問の先生に言われて」と、花束嬢になったいきさつを話していたけれど。学校の代表として花束を渡す崎田さんを、わたしなんかが簡単に誘ってしまってもいいのだろうか。

 さらにその数日後のこと。新しく生徒会役員になった生徒たちが教室にやって来て、崎田さんに総合文化部長就任の要請をしていた。
 総合文化部長とは、文化系の部活動で部長をしているひとたちの長のこと。文化祭や総会でスピーチしたり、年度末に発行される冊子に寄稿したりする。
 崎田さんは「わたしでいいのかなあ? 生徒会でちゃんと話し合った?」と戸惑った顔をしていたけれど、最後には快く引き受けていた。

 それを見たら、ますます声をかけづらくなってしまった。

 十一月中旬の生徒総会は、もう目前だった。


 いよいよ廃部の足音が大きくなってきた、月曜の昼休み。

 腕時計で時刻を確認して、腰を上げた。五時間目にある英語の授業は視聴覚室で洋画を観るから早めに移動をしてほしい、と。さっき教科係のクラスメイトが呼びかけていたから、移動の前にトイレに行っておこうと思ったのだ。

 昼休みのトイレは混んでいた。個室に並ぶ人数も多かったけれど、手洗い場はもっと混んでいた。
 というのも、同じクラスの女の子たちが、手を洗い終わってもその場にとどまって楽しそうにおしゃべりしているのだ。その女の子たちは派手で目立つ、所謂イケてるグループの子たちだったから、みんな鬱陶しがりながらも関わらないよう、隙間を縫うように手を洗う。そのせいでなかなか列が進まないようだった。

 わたしもその列に並ぶけれど、トイレにやって来るひとたちも大勢いて、すれ違うのもやっとなくらい混み合ってしまった。

 派手なグループの女の子たちは、買ったばかりだという化粧品を見せ合うのに夢中で、周りの様子は気にならないみたいだ。

 わたしにはどうすることもできずに、ただひたすら困っていると「邪魔なんだけど」と。背後から尖った声が聞こえた。
 同じクラスの矢田さんだった。

「手、洗い終わったならどいてくれない? 混みすぎて身動きとれない」

 混雑の中でもよく通る、はっきりとした声。そんな声で矢田さんが言うと、グループの子たちはあからさまに嫌な顔をして、置いていた化粧ポーチを乱暴に取ると、彼女の悪口を言いながら行ってしまった。

 手洗い場が全て使えるようになったことで、混雑もすぐに解消された。
 矢田さんは顔色ひとつ変えないまま手を洗い、何事もなかったかのように歩き出した。

 わたしもすぐ後について教室に戻り、教科書や筆記用具を持って、すぐ後について視聴覚室に移動したのだった。