新しいポスターは文芸部の部室で作った。
 崎田さんが色んな色のマジックでカラフルな文字を書き、その下に写真を貼る。写真はこの間の文化祭で記録用に撮っていたものの中から吉野くんが選んだ。
 最初にわたしが作ったものよりもずっと、いや大分、いや比べものにならないくらいの出来だった。
 これなら誰かの目に留まり、入部希望者が来てくれるかもしれない。

 何の得にもならない作業を終えたふたりは「部員増えたらいいね」「増えるだろ」なんてやり取りを、清々しい表情でしていた。

 ついこの間まで何の接点もないクラスメイト。出身中学も部活も委員会も違う。それなのにどうしてこのふたりは、縁もゆかりもないわたしを手伝ってくれるのだろう。

 いや、きっと違う。わたしを手伝っているんじゃない。このふたりは相手が誰であろうと分け隔てなく気にかけることができるのだ。損得なんてきっと考えていないのだ。

 このふたりの優しさを無駄にしないためにも、どうにか部員を確保して、廃部の危機を脱しなければ。


 だけどやっぱり、現実はそんなに甘くなかった。

 新しいポスターを貼って半月が過ぎても、入部希望者どころか見学者すら来ない。顧問の先生も何人かに声をかけたみたいだけど成果はなし。でも運命の生徒総会は待ってくれない。

 崎田さんと吉野くんに手伝ってもらって、これならいけるかもしれないと膨らんでいた気持ちが、急速にしぼんでいくのを感じた。もうどうしようもない。ただ廃部を待つしかない。

 諦めムードで先生の元に行くと、こんな話を聞かされた。

「うちの学校はふたつまで兼部が許可されているから、もう部活に入っている生徒も勧誘オーケーだよ。中谷さん、誰か手芸に興味がありそうな友だちいない?」

 いくら兼部オーケーとはいえ、わたしには友だちがいないのだから、部に入っていようがいまいが関係ない。誘えるひとなんてひとりもいないのだ。

「もうこの際手芸をやっていなくても、興味がなくてもいいの。ボタン付けや雑巾作りから始めようって勧誘してみてよ。先生もできるだけ声かけてみるからさ」

 ハードルを下げても無理だ。誘えるひとがいない。

 一瞬、吉野くんと崎田さんの顔が浮かんだ。

 あのふたりは唯一、手芸部の部員が足りていないことを知っている。どうしても部員が集まらないことを知れば、優しいふたりはもしかしたら入部してくれるかもしれない。文化祭の展示を見に来て、しかも買ってくれているから、手芸に全く興味がないというわけではないはずだ。先生の言うように、ボタン付けや雑巾作りから始めてもいいかもしれない。最悪名前だけ貸してもらうという手もある。

 あのふたりがこの危機的状況に気付いて、その優しい手を差し伸べてくれないだろうか。

 先生の話を聞きながら、そんな卑怯で他力本願なことを考えている自分が情けなくって。わたしはただ曖昧に笑い、曖昧に頷いた。