休日、支度をしてリビングに行くと、会いたくないやつがいた。いとこの春樹。昔から顔を合わせれば喧嘩している天敵だ。一重まぶたのつり目でやたらと人相が悪いし口も悪い。できれば一生関わりたくないのに、いとこだからそういうわけにもいかない。だからわたしは、極力視界に入れないことにしている。

 挨拶もせずに横を素通りしてキッチンに向かうと、おい、と乱暴な声が聞こえた。

「なによ」

 わたしも乱暴に返事をする。

「仕事?」

「今日休みだから買い物。新しい靴とバッグが欲しいの」

「買い物してる暇があるなら、少しくらい部屋片付けろよ」

「うるさいなあ」

 いらいらしながら顔を上げる。やつは開いていた新聞を読み続けていて、ちらりともこちらを見ない。

「ちゃんと家事覚えないと、いつまで経っても彼氏できねえぞ」

 余計なお世話だし、それはわたしの台詞だ。そのぼさぼさ頭をなんとかしてもっと愛想良くしなきゃ、いつまで経っても彼女なんてできない。

「ご心配なく。近いうちに彼氏ができるから」

「へえ、良いやついるんだ」

「まあね! 春樹なんかとは比べものにならないくらいのイケメンだから!」

「おまえはほんとイケメン好きだな」

「悪い?」

 乱暴に冷蔵庫を閉めると、その音に反応して春樹がようやく顔を上げた。

「悪くはないけど、見た目ばっかり気にしてると失敗すんぞ」

「はあ? 意味分かんない」

「どんなに見た目が良くても性格とか趣味が合わなきゃ意味ないだろ。ちゃんと合うやつなの?」

 言われて初めて気付いた。遼太さんとは十回会ったけれど、そういえば趣味や特技は聞いていなかった。誕生日は聞いた。恋人の有無も。休日はずっと寝ているか家事をして終わってしまうと言っていたけれど。

 あれ? 普段、どんな話をしていたっけ。遼太さんはいつもにこにこしながらわたしの話を聞いてくれて、嫌な顔ひとつせずに頷いたりコメントをくれたり。だから嫌われてはいないだろうけど、趣味はどうなんだろう。できれば休みの日には美味しい料理を食べに行ったりショッピングをしたりしたい。夏は海に行きたいし、冬は山に行きたい。そんなわたしの理想を、遼太さんと共有できるだろうか。

 考えていると春樹は大きなため息をついて新聞を閉じた。

「めでたく初めての彼氏ができたら赤飯炊いてやるよ」

「わたしの心配するより自分の心配しなよ。その上から目線をやめなきゃ、いつまで経っても彼女できないよ」