「訴えないでね」

 真っ赤になったわたしの耳を見て、店長が言う。

 耳の軟骨にピアスホールをあけてもらったのは数分前のこと。

 退勤後、店長が休憩室に来るのを待って頼み込んだのだった。軟骨にピアスだなんて経験ないから無理無理、と激しく嫌がる店長の腕を掴み、大事な休憩時間の大半を使って、どうにかこうにか説得に成功したのだった。

「スタッフの身体に穴あけちまった……」

 軟骨に穴をあけるという行為が相当なトラウマになったのか、すっかり項垂れる店長の肩をたたいて笑った。落ち込まないで。訴えないし、後悔もしませんよ。大好きなあなたに、どうしてもあけてもらいたかったんです。軟骨に穴をあけるのなんて怖かったけど、わたしの耳に触れた店長の手が微かに震えていたから、それがどうしようもないくらい可愛くて、怖さなんて吹き飛んじゃいましたから。

 なんて。口には出せないのだけれど。