ぐらぐらと揺れるタクシーのなか、流れるJ‐POPに嫌気がさす。

別れた女へ向けた歌らしい。
愛だの恋だの、いい大人が下らない。自分から別れたのにまた会いたいだなんて、じゃあ別れなきゃいいだろう。そうでなければ土下座して詫びて復縁を求めればいいのに。


バレンタイン当日のその日は、会社ではピンクの紙袋やシックな色合いの小さな箱などが手と手を行き交って、町中のカップルなどはみな幸せそうに見えた。
もう終電を過ぎた深夜なのに町中が色めき立っているのは、おそらく今日が金曜日だからだ。私なんて仕方なくタクシー帰りで、給料日前になんて無駄な出費だよと思う。それはカバンのなかに入ったままの、誰かさんの手に渡るはずだった小さな紙袋にも向けられる悪態で。


「ごめんな、もう終わりにしよう」


バレンタイン当日に仕事帰りに少し時間をもらいたいと言われて、素直に浮かれた自分を呪ってやりたい。
柄にもなくチョコなんて用意して、柄にもなく、いつもより化粧を頑張って、オフィスに着ていく服を念入りに選んで。まさかそんな、どこかの古いドラマや小説かというような別れの常套句を聞くことになるなんて、思いもせずに。

ぐしゃっと、かばんの中の小さな紙袋を握る。