黙ったままでその場の進行をみている蜘蛛をじっと見詰めたままで、桑谷さんが言った。

「そんなわけでまり、交代だ。俺はこいつと話をする必要がある。君は噂の冷徹人間から息子を救い出しに行ってくれ」

 その冷徹人間に息子を預けたのは誰なんだっつー話よ!

 私は腕を組んで低い声で言った。

「─────後で話し合いが必要よ」

「この件が片付いたら、ゆっくり時間取るよ」

 うぐぐぐ・・・仕方ない。とにかく、私は戻らなければならない。

 だから鞄を拾ってベビーカーへのせ、私は蜘蛛野郎を振り返った。

「じゃあ、お疲れ様。ちゃんと昇天してね」

 蜘蛛野郎はこっちをみていた。相変わらず感情の見えない表情で。

 だけどちっとも怖くなかった。

 桑谷さんがいる。それから、飯田さんも。もしかしたら私が知らないだけで、違う罠も用意してあるのかもしれない。

 だから私は2度と振り返らなかった。ただ、夜道をベビーカーを押して走っていた。全力疾走だ。

 家へ。

 凄く気になっていたのだった。

 我が家で息子と一緒にいる、滝本さんの様子が。