本当は夫がみてくれるべきなのだ。だけど、彼は強固に自分が蜘蛛と対決すると宣言した。では、一体誰が?

 夫は蜘蛛から目を離さずに、きゅっと口の左端を持ち上げて笑う。全身に闘志をまとわせたままで、それはかなりやんちゃな笑顔だった。

「英男だ」

「─────は?」

 そう言ったのは私。右前方で、飯田さんも驚いたらしく桑谷さんを凝視したのがわかった。

「英男だ。そこは責任者に出てもらうのが筋ってもんだろ?」

 物凄く楽しそうな言い方だった。勿論、子供どころか赤ん坊の相手などしたことがないはずの滝本さんに押し付けて、彼はサディスティックな喜びを感じているのに違いない。

 私は唖然として一瞬言葉を失ってしまった。

 ・・・あの、正体不明の恐ろしいマネキン人形みたいな滝本さんが、雅坊の付き添いを!??

「・・・大丈夫なの、それ?」

 お互いにとって。

 そう思って聞くと、まだ楽しそうな顔をしたままの夫はヒョイと肩をすくめた。

「多分な。雅が寝てりゃあ問題ない。起きていたら──────ちょっと見ものだな」

 いやいやいやいや。私は心の中で盛大に突っ込んだ。ちなみに、張り手つきで。

「見ものだ、じゃないでしょ!どっちも可哀想だわ、それは!」

 右前方で飯田さんが微かに頷いている。彼は上司である滝本さんに同情しているに違いない。だから私は息子の同情をしましょ。だって目覚めたら、あんな眼鏡の兄ちゃんがいるなんて、きっとびっくり仰天!かーなりシリアスな場面じゃないの!