「デートは久しぶりだよな。楽しもうぜ、折角だから」

「無理やり買わされた券できたパーティーでデートってのも何だけど・・・まあ雅坊がいないで二人っていうのは久しぶりよね、確かに」

 私たちの息子である雅洋は2歳、今晩は十分に慣れ親しんだ彼の母親に預けてきているのだ。私達は静かにグラスをあわせてシャンパンを飲む。微炭酸が喉を通って、一瞬で気分がよくなった。

「そうね」

 私は彼を見上げてにっこり笑う。

「どうせだから、楽しみましょう」

 パーティーはこの時、始まったばかりだった。


 だけどもやっぱり、普段の自分達と全く関係のない人々が集う仕事上のパーティーなんて、退屈極まりなかったのだ。

 私は弘美がエッセイを連載しているので雑誌そのものを何度か読んだことがあったので、小説家や編集者などに見知った名前や顔があり、それはそれで興奮して眺めたり話したりして、会場を動き回っていたりもした。だけど彼は早々に場所に飽きたらしく、暫くは酒を飲みながら壁際で会場を観察していたけれど、その内どこかへ姿を消す始末。

 まあ多分、ストレス発散に喫煙でもしているのだろうと私は思っていた。

 2時間くらいいれば、十分かなって。私は考えていたのだ。もう弘美への義理は果たしたし、時間は夜の9時で、普段なら雅坊の添い寝でうとうとしている頃だった。

 ビールは毎日のように飲むけれど、ワインはそうでもない。足元にちょっとばかりアルコールの影響が出てるわ、そう思って、レストルームへ行こうとしていたのだった。

 誰か偉いさんのお友達らしい歌手が舞台で歌っている隙に会場を抜け出す。騒がしい部屋から廊下へと出て、その静けさにホッとした。