夜の9時。
私はベビーカーに毛布をかけて、秋の夜の防寒準備をしてから大きなバッグを持ってこっそりと家を出た。
ここから夫の実家までは徒歩で25分。歩きでは結構な距離だけど、ベビーカーでは仕方がない。車で行ってはあちらに駐車場がないので困ることになる。
「さて、出発ね」
一人ごちて、そろそろと夜の中を歩き出した。
月が出ていて風はそんなにない。そういえば、先月の十五夜も綺麗だったわ、そう思いながら人気のない夜道をベビーカーを押して歩いていく。
夜道になるとふと昔のことを思い出してしまうのだ。
小さなころに父の背中におぶわれての夜の散歩や、学生時代のデートの帰り。大学生の時は楠本達とよく飲み会をしていたし、あの頃は夜というより既に朝の帰宅になったものだった。
それから私の黒歴史である元カレの守口斎に振り回されていた頃や、桑谷さんと出会って手を繋いで歩いたことなんかも。
今は、ベビーカーを押して歩いている。
あら、これってちょっと不思議ねって。
だけど、物思いに沈めたのはほんの少しの間だった。
家を出てからおおよそ10分くらい経過していた。駅前を過ぎて、町の明るい外灯はとっくに過ぎてしまっている住宅街。それも大きな家が多くて周囲は巨大な塀が続くという場所で、私は少し離れたところに立っている人間の影に気がついた。
ぽつんぽつんと離れて立っている外灯の一つに照らされて、ヤツは顔を影にして立っている。



