食堂内に入ってざっと見渡すと、隅っこの方にある大きな楕円テーブルで数人の同僚と話している夫を発見した。男性陣がコーヒーを前に思い思いの寛いだ格好で談笑している。
躊躇せずにそちらへ向かっていく。
何人かが気がついて、声を上げた。
「お、桑谷。奥さんが登場だぞ~」
ん?と彼が振り返る。
私はにっこりと笑みを浮かべて方々へと愛嬌ある挨拶をし、彼の肩に手をかけた。
「ちょっといい?」
周囲がにやにやとはやし立てる。ここ職場ですよ~という声には、夫が中指をつきたててみせていた。
時間が時間だから人がいないところ、などはない。仕方なく同僚達とは少し離れた場所に座って、どうした、と目で聞く彼に小さな声で言った。なんせ、周囲には普通に従業員がわんさかいるのだ。どうケアしたって胡散臭くなってしまう話題は、小声でないとダメだよね。
「ヤツが来たわ、午前中」
彼の瞳から優しさが消えた。急に現れた不機嫌な気配に、私はやれやれとため息をつく。
「ちょっと、ここでそんな顔しないでよ。私が怒られてるみたいじゃないの!」
「────ああ、悪い」
瞳を伏せて彼はコーヒーを飲む。そして、それで?と話を促した。
「売り場にきて、私と話をした。朝あなたにはまかれちゃったからこっちにきたと言っていた。あっちの依頼人にはちょっと待てといわれているらしい。それは、あの歌手が警察にいったから、らしいの。で、蜘蛛は暇なのよ。しかも私達に腹を立てている。だから、うちの雅坊と────────」
「・・・歌手を交換、か?」



