「・・・朝、ダンナにまかれちまったよ」
「商品お決まりでしたら、お伺いします」
ヤツはこちらをちらりと見た。相変わらず表情が読めない無表情で。何でも屋というのは誰にでもなりきれるために特徴のない背格好、顔立ちをしている人が好まれると聞いたことがある。だから、こいつも覚えにくい姿形をしているのだろう。
黒髪、短すぎず長すぎない短髪。奥二重の瞳。平均的な鼻、特徴のない口元。歯は矯正しているのか綺麗な歯並びだったはずだ。きっと、八重歯なんかで目立つのがダメなのだろう。
姿が見えなくなれば、5秒で忘れそうな人間・・・。
蜘蛛野郎が小さな声で言った。
「だから、こっちに来たんだ。桑谷まり、さん」
「熨斗体裁や包装など、お気軽にお申し付けくださいませ」
ヤツがちょっと目を見開いて、また私を見る。にこにこにこにこ。百貨店の教育の賜物であるこの親しみを込めた笑顔攻撃をみよ。私は口元がそろそろひきつりかけているのを感じながら、それでも笑顔を崩さなかった。
だってここは私の職場なのだ。いきなり「お客様」に「何しにきたんだテメエ」などと怒鳴るわけにはいかないじゃあないの。
「・・・あんた、ちょっと面白いな。じゃあこれを貰うよ」
ヤツはガラスケースの上に見を乗り出し、チップスにチョコレートをかけてコーティングしたお菓子の子袋を指差す。私は更に笑顔を大きくして両手でその包みをとった。
「畏まりました。少々お待ち下さい」
それからカウンターに入って袋包装を始める。



