彼はとても真面目な顔で私を見下ろしている。私が考えていることなど全てお見通しであるような気がした。
・・・や~っぱり止めときましょ、軽口叩くのは。朝から面倒くさいことになりたくないし。
だから、私はただ頷いただけだった。
桑谷さんはちょっと片眉を上げたけれど、そのまま服を着に奥へと入っていったのだ。
そんな朝だった。
私は自分のチョコレート屋さんの売り場に立って、パソコン画面を睨めっこしながら回想していた。雅坊は保育園に間に合ったのかしら?それに、彼も?桑谷さんの職場の新人の子に、今度ご馳走しなくっちゃ─────
今日の売り場の相方である福田店長はお昼の休憩にいっていた。私は閑散としているデパ地下の洋菓子売り場を何と無しに見渡して、エスカレーターのところで視線を止める。
──────あら。
どうやらそこに立ってずっとこちらを見ていたらしい男が、特徴のない無表情の顔のままでふらふらと近づいてくるのが見えた。
・・・蜘蛛野郎のお出ましだわ。
私は手早くパソコンを片付けて、顔に笑顔を貼り付ける。バカ野郎でも、一応お客様。
ヤツはたらたらとした足取りで、それでもこの売り場を目指してきていると判ったので、私はケースの前へ出た。それから、声の聞こえる距離に入った蜘蛛男めがけて言った。
「いらっしゃいませ」
蜘蛛男は無表情のまま私から目を離さずに近づいて、黙って突っ立った。
私も笑顔を崩さないままで両手を前に交差して待つ。
しばらく無言で見つめあったまま、ゆらりとヤツが視線を外した。



