蜘蛛が顔を歪めて何かを発言しようとした。だけどその前に、ぶっすーとした桑谷さんの声が入り込んでくる。

「私達、だ。私達」

 簡単に目をぐるんと回してやった。つい言葉が出ちゃっただけじゃないの!

「あら失礼」

「わざと間違えただろう、今」

「そんな信頼されると照れるわね」

「どう捉えたら信頼になるんだ!」

 パタパタと靴音が聞こえる。夫婦で言い合いをしながら同時に振り向くと、どうやら蜘蛛野郎はうんざりしているようだった。片足を地面にうちつけて、私達の興味関心を取り戻そうとしたらしい。

「あんたら仲がいいのか悪いのか判らない夫婦だな。なんつーか、締まらない」

「「うるせえな」」

 夫婦ではもってしまった。

 蜘蛛が真顔のままで、ふーん、と顎をかく。

「・・・奇妙なやつらだ、あんた達。やっぱりちょっと調べさせて貰うよ。それで、これ以上こっちの邪魔をするようなら考えさせて貰う。このままでは商売上がったりだ」

 言うだけ言うと、ヤツはくるりと背中を向けた。それから全く急ぎもせずに暗闇へと消えていった。

 足音もなかった。

 ・・・何でも屋って、ほんと不気味だわ。

 私は腕を組んで、やつが消えた駐車場のくらがりを見詰める。

 隣から大きなため息が聞こえた。

「・・・だから放置しようぜって、言ったんだよ・・・」

 彼は、激しく数時間前の行動を悔やんでいるようだった。