飯田さんや桑谷さんの同情的な顔を観察してから、終わったのねと振り返った。

 青い顔のマネージャーと、まだ袋に顔を突っ込んでいる歌手。ああ・・・可哀想に。

「ありがとうございます」

 湯浅さんに耳栓を返したところで、滝本さんが口を開いた。

「さて、今晩は。あなた方には何が何だか判らないでしょうから説明します。ここは私の会社で、主な業務は調査です。私は責任者の滝本、それから社員の飯田、湯浅、誉田。彼らは桑谷夫妻です」

 完全に柔らかい雰囲気をまとった外面モードになった滝本さんが、驚いて目を見開いている彼らにゆっくりと説明を始める。マネージャーの新井という男は口を開いたままでキョロキョロしていたが、とにかくと滝本さんの方を凝視した。

「あなた方は歌手の北川ミレイさんとそのマネージャーの新井優斗さん。間違いないですか?」

「え・・・あ、はい」

「そう、です」

 二人はまだ吐き気の残るらしい苦しそうな表情のままで、頷いた。

 湯浅さんが二人にコップに入れた水を持ってくる。白湯です、飲んで、と言われて二人は顔を見合わせたけれど、しばらくしてコップを空にした。

「大丈夫ですか?無理やり薬で眠らされていたのを起こしたので、吐き気があるでしょう」

 滝本がそう言うと、歌手の方がはっとした顔をした。青ざめていて汗がうき、舞台化粧で濃い目のアイシャドーが崩れて横にのびてしまっている。それでも綺麗な顔だと思った。