女神は蜘蛛の巣で踊る



「それでこちらが、噂のダンナ様よね!」

 弘美が大きな声でそう言って、タダでさえ大きな瞳を好奇心で一杯に見開いて隣の夫を見る。今日は、夫婦で参加したのだった。よく考えたら結婚式も挙げていない私たちは、お互いの友人や知人にパートナーのことを紹介してもいないのだ。大体年賀状の結婚報告でも写真すらつけなかった。

 といっても夫である彰人は職場の百貨店が私と同じなので、職場の人達には最初から知れ渡ってるわけだけど。

 私の男友達で親友でもある楠本孝明という無駄に美形の男とは、夫の桑谷彰人は面識がある。だけど、弘美とは会ったことがなかったのだった。

「桑谷です。こんばんは。お話はよく伺ってますよ」

 夫がそう言って、弘美に笑顔を向けた。それは子供のように無邪気で大きな笑顔で、彼がたま~にする、相手の警戒心を一瞬で解く笑顔だった。

 桑谷彰人という男は、履歴書を書かせたら珍しい経歴ばかりで職業欄が埋まるような、ちょっと変わった人生を送ってきた男なのだった。出会ったのは今も勤める百貨店。元カレで私の黒歴史である守口斎というバカ野郎を追い詰めるために入ったそこで、彼は私の命を助けてくれたことがあるのだった。それも、相当数。

 彼の変わっていて、かつ危険な過去が引き起こす事件に私が巻き込まれたこともあるし、何だかんだで一緒にいる内にカップルになってしまったのだった。

 そして弘美は、私から彼の話だけを聞いている。そりゃあ凄まじいばかりの好奇心をもって夫を眺めるはずよね、私は苦笑してそう思った。