「ちょっと違います。友人の華やかな舞台を台無しにするのかと思ったら止めなくては、と思ったのよ」

 じろりと睨むと桑谷さんは露骨に視線をそらす。もう。

 私は滝本さん、飯田さん、湯浅さん、ついでに誉田さんも見回して説明を引き取った。結局蜘蛛に目的を聞こうとしたけどうまく行かなかったこと、夫が蜘蛛野郎からマネージャーの名刺を掏り取っていたことで狙いは歌手達かもと思ったこと。それで戻ってくる歌手達を狙って蜘蛛男も控え室にくるかと思って潜んでいたこと。

「すると、控え室に戻った二人が飲んだお茶に何かが入っていたらしいんです。この人達はすぐに眠ってしまったの」

 今はソファーに寝かされている二人を指差す。

「で、何事だと思って二人に近づくと、蜘蛛野郎・・・失礼、あの何でも屋が部屋に入ってきたので、桑谷さんと喧嘩になったんです」

 滝本さんが器用に眉をひゅっとあげて、面白そうな顔で桑谷さんを見た。

「喧嘩?」

 桑谷さんがぶすっとした声で答える。

「まりにはそう見えたんだろう。俺としては美しい格闘のつもりだったんだけどな。とにかく、部屋にきたヤツはすでに俺達に対して怒っているようだった。散々邪魔されたと思ってるんだろうし、それは仕方ない。ヤツが怒って構えたからこっちも相手することにしたんだ。何か格闘技の経験があるようだった。構えや目線で。だから、先手必勝で荒っぽくいったんだ。そうしたら逃げられた」