じとーっと睨んでいたら、相変わらず微笑を浮かべた顔で、滝本さんが言った。

「つまり・・・あなたは蜘蛛に暴力を働かれたのに立腹したわけですね。だけど仕事中の蜘蛛がいきなりそんなことをするとは思えないから、きっと何か追い詰めるような詰問を、あなたがしたんじゃないですか?」

 詰問・・・。って、あれか?

 私は首を傾げながら滝本さんを見る。

「名札がない、てことは言いましたね」

「それだけですか?」

「靴もおかしいと。それから、トイレに案内しろ、と強要しました」

 くっくっく、と、堪え切れないように小さく笑って滝本さんが外へと促す。それから部屋の電気を消して、一人頷くとドアを静かに閉めた。

「───────で、したんですか?」

「はい?何をですか?」

 歩きながら振り返った私を見て、滝本さんが笑った。

「蜘蛛に仕返しです。私の知っているあなたなら、当然したものとは思いますが」

 エレベーターではなく階段に誘導されたので、ヒール音を鳴らしながら降りる。何てことないように、私は前を見たままで言った。

「ええ、勿論」

 7センチヒールで殴ってやりました。

 うしろからまた、くくくくと抑えた笑い声が聞こえた。