飯田さんて人、どこでスカウトしてきたの?

 一番最初に彼の存在を知った時、私は夫にそう聞いたことがあった。ところが、その時の桑谷さんの返事はこれ。「路地裏で拾った」。私は、は?と思ったけれど詳しく聞いてはいけないような気がして、そこで会話を打ち切ったのを覚えている。

 頷く滝本を確認して、飯田さんは誉田さんに指示を出し、二人でマネージャーの体を支えて持ち上げる。

「この男性はかなり酔っ払っている。それを支えてるんだ、誉田、いいか?」

「了解っす!!」

 飯田さんと誉田さんがマネージャーを支えながら演技をしつつ部屋を出て行く。ホテルを出るまでに誰かに会ったら、溺酔した男を介抱しているふりをするのだな、と判った。桑谷さんはそれをじっと見たあとに、首をぐるんと回して体をほぐした。

「よし、彼女を運ぼう」

 私も滝本さんも静かにそれを聞く。桑谷さんは歌手にかがみこもうとして、怪訝な顔で私たちを交互にみあげた。

「・・・手伝えよ」

 私が表情も変えずに言葉を出したのと、滝本さんが声を出したのが全く同じタイミングだった。

「お前だけで十分だ」

「あなただけで大丈夫でしょ」

 妻と元パートナーの素晴らしいハモリに彼は心底嫌そうな顔をする。それから深深とため息をはくと、力を失ってぐったりする歌手を力を込めて抱き上げながら私達を睨みつける。

「役に立たない人材だな!」

 滝本さんはにやりと笑うと、スタスタとドアまで行って優雅な仕草で大きく開け放つ。

「そんな失礼な。ほら、こうしてドアを開けておいてやる。車を停めてあるから裏口から出てくれ。表はカメラが多すぎる」