「そんなことは言ってない。一応聞くが、何してるんだ、ここで?」
「何してると思う?」
彼はまだ不機嫌なままでぼそっと言った。
「・・・奴を待ち伏せしてぼこぼこにしようと企んでいる、と思っている」
わかってるんじゃないの、素晴らしい。私は力をこめて、にっこりとほほ笑んだ。
夫はもう一度ため息をついて、それから部屋の電気を消した。
「ん?」
「俺もいるよ」
すたすたと歩いてきて、私の隣に座る。それから息を吐くとやれやれと呟くように言った。
「・・・君の家族をするのは、まったく大変だな」
それはお互い様でしょうが。私はそう心の中で言って、足を組み替えた。
私たちがいるところは大都会のほぼ真中に位置する中級ランクのホテルだ。その3階にある廊下の端っこの控え室3。
なぜ、暗闇の中、夫婦で不機嫌にここに座っているかというと・・・・。
ことの始まりは3時間前に遡る。
「まり~!よく来てくれたわねえ!」
私の数少ない女友達である、高木弘美が両手を広げて大げさな笑顔で近づいてくる。私は仕方ないわね、と肩をすくめてから彼女が抱きつくのにまかせた。
今晩は、弘美がエッセイやコラムを書いている雑誌の、創刊15周年のパーティーなのだ。貧乏な雑誌社では到底支払えない会場代その他諸々は、パーティー券を販売することで事なきを得るらしい。そして私は、友情をダシにされてそのパー券を買う羽目になったってことで・・・。



