いつの間にやらテーブルから床へと落ちていたらしい睡眠薬(?多分)入りのペットボトルを、そのまま右足で蜘蛛男の顔面目掛けてへと蹴り上げたのだ。ヤツはそれをパッと片手で交わす。その間に大きく一歩踏み込んで、桑谷さんが左右の拳を蜘蛛男の胸と腹目掛けて同時に繰り出した。胸部への左拳は空いていた片手で防がれたけれど、お腹への右拳はヒットしたらしい。
わお!私は目を丸くしていた。まるで中学生の喧嘩のような攻撃方法だけど、スピードと力がバカみたいにあるから結構な威力なはずだ。
ぐ、と詰まった声を上げて蜘蛛男は後ろへ下がる。それを追いかけるようにして間合いをつめた桑谷さんが、そのまま勢いよく頭を振り下ろした。
私は思わず目をそむける。ガン!と十分痛そうな音がして、夫の頭突きがクリーンヒットしたのが判った。多少、蜘蛛男に同情した。
「く、っそ・・・」
眉間を押さえたままで、蜘蛛男は開いたままのドアへと追い詰められ、寄りかかる。相当痛かったはずだ。やつが痛かったのであればやった方である夫も痛かっただろうけれど、桑谷さんのスーツ姿の背中には、相変わらずの闘志と、なにやら楽しそうな気配が漂っていた。
喧嘩、楽しんでるのかも。
蜘蛛男はチラリと私のそばで眠りこける歌手とそのマネージャーに目をやる。それからいきなり身を翻すと、一瞬で視界から消えた。
「え?早っ・・・」
思わず携帯電話を落として私は立ち上がる。冷静に考えたら、開いたままのドアから出て行ったのだ、と分かったけれど、あまりに動きが早くてその場で煙みたいに消えたのかと思ってしまった。
忍者があいつは!



