8畳ほどの控え室の中では、それなりに体の大きな男二人がにらみ合って立っていた。周囲はテーブルが一つと壁によせられた椅子が数脚、それから一面の壁際にはハンガーに吊るされた衣装の数々。
結構狭いこの場所で、殴りあうのはちょっといただけないんじゃない?そんなことを思いながら、何となく他人事の私は二人の男を観察していた。
夫である桑谷彰人は、経歴は多種多様な変わった会社の名前が見える男なのだ。それは警備会社や調査会社なので、現職の百貨店スポーツ用品店売り場責任者という肩書きからはち~っとも想像出来ない過去だけど、今でも暇さえあれば運動して体調を整えている彼は、喧嘩慣れはしているのだろうと思う。
でも体術や武術を習ったことがあるわけではなさそうだし、蜘蛛男は何でも屋ってくらいだから、その道のプロかもしれない。
ヤバイのか、それとも全然大丈夫なのかも分からないわ。そう思っていた。
だけど蜘蛛男は二人の人間を眠らせている(と思う)し、ホテルの人を眠らせているのだ。私達二人は危険な状況にあると考えるべきよね。万が一の場合は警察に電話よ、そう思った私は、一応手の中に携帯電話を滑らせてはおいたのだ。
「・・・くそ、簡単な仕事だったのに。変なやつらに絡まれちまった!」
蜘蛛男がそういいながら体を斜めに構える。正眼、腰をおとして、ほどほどに体から力が抜けているようだ。・・・こいつ、やっぱり何か武術の経験があるっぽいわ。私はそう思って、携帯電話を開ける。
夫は不利かもしれない────────そう思った時、桑谷さんの右足がひょいと動いた。



