歌手に駆け寄るときに引っかかって脱いでしまっていた7センチヒールのパンプスを掴んでいた。走ると同時に躊躇することなくそれを振り上げて、私は無意識のままで、腕を真横になぎ払う。
「がっ!!」
カーン、といい音がして、蜘蛛男が吹っ飛んで倒れた。
廊下に全身出した状態で倒れた蜘蛛男を、スタスタと歩いて近づいていた桑谷さんが、また両足をひっつかんで部屋へ引きずり込んだ。
「ま、まて~!!ちょっ・・・何なんだよお前たちは!?は、はなっせ~!」
ジタバタと蜘蛛男が暴れる。私はヒールで殴ったことでようやく気が済んだので、ヒールを放り出して眠りこけている歌手とマネージャーの方へと引き返し、彼らを楽な姿勢で寝かせる努力をした。
「放せ!!」
「うるせーぞ、スパイダーマン。お前が先に彼女をどついたんだろう?なら諦めろ、この人は実に執念深い女性なんだ」
ハロー?私は顔を顰めた。
「・・・聞こえてるわよ。お褒めの言葉をありがとう」
「褒めてねえだろ」
二人で一瞬視線を絡めて威嚇しあう。そこに、蜘蛛男の声が降って来た。
「何なんだよあんたらは!?いい加減仕事の邪魔すんのやめてくれ!」
ヤツが身を捻って私を見ていた桑谷さんの両手から足を逃がした。それと同時に床を両手で叩いて力を込め、柔らかく腰を回してパッと立ち上がる。それは見事な体術で、つかの間、私は感心したほどだった。
ヤツはすぐさま腰を落として、攻撃態勢に構える。目はギラギラと光っていて、かなり頭にきているようだった。私と桑谷さんとの距離を目ではかり、丁度いい位置に移動する。



