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「・・・で、あなたはどこに行ってたの?」
控え室に潜んでいるとやってきた桑谷さんに、暗闇の中でそう聞く。
ん?と彼は唸るような声で返して、それから小声でたら~っと言った。
「ちょっとな。ところで、俺達はここにデカイ態度で座っていていいのか?歌手達にしてみれば思いっきり不審者だと思うんだが」
「だって蜘蛛男が先にきたら、ここに座ってる方が攻撃できるかなって」
「・・・いや、足音は2組だ。こいよ、隠れようぜ」
外の音に気をつけていたらしい彼がパッと立ち上がって、舞台衣装などがずらりとかけてあるハンガーの海の中に身を隠す。私も慌てて立ち上がって、暗闇の中を突き進んだ。せっかくソファーで待っていたのに!
間一髪でがちゃりと音がして部屋のあかりがつけられる。私はスーツが並ぶ中に頭から突っ込んでしゃがみ込んだ。
「案外受けがよくてよかったわ、今晩は」
ハスキーな女性の声が聞こえる。その返事に男性の声も。少し落ち着きのないような軽い印象を受ける声が、さっき蜘蛛男が持っていたあの名刺の主、マネージャーの新井なのだろう。
「しかし見事に酔っ払いばかりだったな」
「いいのよ、歌の邪魔さえしてくれなかったら」
「まあ、な」
濃紺スーツジャケットや真ピンクのドレスの間から私はこっそりと部屋の中央を覗き見る。どうして私はこんなことを?と一瞬マトモな頭が考えたけれど、彼らがニコニコ笑いながらペットボトルのお茶をコップについで飲むところを見ていたために、そんな現実感はすっ飛んでしまったのだ。



