その時、ちょうど歌手とマネージャーらしき男が会釈をしながら立ち上がったところだった。
「・・・帰るのかしら」
私の呟きは弘美に聞こえたらしい。そして立派な酔っ払いであるらしい彼女は、大して考えずもせずに手をヒラヒラと振って言った。
「控え室に戻るんでしょ~。ほら、あるじゃない、そういうの。同じ階に用意してあるはずよ」
・・・おお!
私はなるほど!と頷いて、弘美の腕を軽く叩く。
「楽しんで、弘美。社交的にならなきゃだめよ」
「任せてよ。私を誰だと思ってんのよ?あんたは帰るの、まり?」
「・・・まあ、そのうちに」
は?と顔を変に歪めた弘美に手を振って見せて、私はまた会場を抜け出す。控え室か!そうよね、あるはずよ。荷物だって置いているだろうし、着替えもするだろうし。ってことはそこに忍び込んでいれば─────────何か判るかも。
つか、夫はどこにいったのよ!?私はイライラと目だけで探したけれど、無駄にでかい彼の姿は判らなかった。とにかくと急いで廊下を歩く。恐らく、このあたり。エレベーターホールを抜けて、トイレを通過し、それから・・・・・・あった。
プレートに「北川ミレイ様」と書かれた部屋を発見した。
ドアのノブに手を当ててみる。すると何の抵抗もなく開いたので、無旋状であると判った。おそらくただの控え室だからだろう。荷物などはここには放置しない決まりに違いない。
少しあけると中は暗闇。私はするりと入り込んだ。



