今夜の為に新しく買って着ているドレスはすでに皺皺になっていて、ちょっと情けない。だけど、背筋をのばして座っていた。私は凛としていたいのだ。バカ野郎と対峙する時にはいつだって。

 その時足音が廊下をこちらにすすむのに気がついて私は息を殺す。

 足音は部屋の前で止まった。そして、カチャリとドアノブがまわる。

 暗闇の中で息を潜めて私はじっとしていた。

 ドアが開き、廊下の明りが細長く部屋の中へと入ってくる。逆光で侵入者の顔はみえないが、高いところにある頭がゆっくりと動いて部屋の中を見回しているようだ。そして───────────


 その人物が、肩をドアの枠にもたれかけて大きなため息をついた。

「・・・こんなことだろうと思ったけど」

 あら。私は目を見開いた。

「どうしてここにいいるって判ったの?」

 現れたのは夫の桑谷彰人だった。どうしてばれたんだろう。全く油断ならない男だわ。

 彼は部屋の電気をつけて入ってきながら、うんざりした顔をしている。

 私がゆったりと座るソファーまで歩いてきて、上からじろりと見下ろした。その黒い一重の瞳は細められ、機嫌が悪そうだ。

「君の考えそうなことだ。だけどまさか人のパーティーでそんなことしないだろうって思ったんだけどな。・・・君は、小川まりなんだった、そう言えば」

「何よそれ。小川姓に戻ってほしいなら離婚しなきゃなんないわよ」

 私がぶすっと答えると、彼はふんと鼻をならした。