変人・・・。それ、滝本さんが聞いたら怒るわよ、自分だってそうだったクセに。そう思いながら私は立ち上がった。

「ここで何かの仕事をしてるのね、あなた。だけど関係ない人を巻きこむのはどうかと思うわよ。そのおかげで正体までばれたわけだし」

 蜘蛛は、暫く押し黙っていたけれど、その内パン!と両手を合わせた。拝む形になって、私たちに頭を下げる。

「追求してくるから排除したんだ。悪かった。だからもう放っておいてくれ。仕返しなら受けただろ?」

 桑谷さんは冷静なままの瞳で私を見た。私は少しだけ首を振る。

「私の友達が、ここの雑誌に記事を書いて生計を立てているのよ。それを台無しにするような仕事なら、私は邪魔するわよ」

 蜘蛛の向こうで桑谷さんが大きなため息をついた。私は勿論それを無視する。

 この「何でも屋」が何をしようが私には確かに関係ないが、それで弘美が仕事を失うようなことだけはあっては困るのだ。乗りかかった船なら、友達に降りかかる火の粉も払いのけたい。

 蜘蛛は一瞬考えるような顔をした。

 だけどすぐに立ち上がって、私を見下ろす。

「悪いが、仕事内容を言うわけにはいかない。あんたを巻き込んだことは謝ったよな、それにこっちも暴力をうけた。それで終わりだ」

 にやりと口元だけで笑って、やつは素早く走り出す。あっという間に私の横を駆け抜けていって、非常階段に消えた。

「・・・あら、早い」

 腕を組んだままで私がそれを見ていると、桑谷さんがうんざりした声で言った。

「で、やっぱり帰らないのか?」